【ネタバレ】全力で生きたいのに|『美丘』(石田衣良)【読書感想】

この記事では、石田衣良さんの著書『美丘』の紹介、読んだ感想をまとめています。

以前、「『40 翼ふたたび』(石田衣良)を読んだ感想。40歳でも希望はある!」という記事で、石田衣良さんの作品を紹介しました。

そして今回も石田衣良さんの『美丘』という作品を手に取る機会があったのでぜひ紹介したいと思います。

ネタバレを含む内容になっております。読む前に結末を知りたくない方は注意してください。

『美丘』の概要

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40 翼ふたたび』と同じく大学の図書館にあったので一緒に借りてきました。

本の表紙を見て恋愛ものなんだということはすぐにわかりました。

まさか、あんなに悲しい話だとは思っていませんでしたが。

大学生の主人公、太一と美丘の二人の恋愛を太一目線で書かれた本になっています。

大学生らしく講義とバイト、飲み会と恋愛が凝縮されており、そこに美丘という圧倒的な魅力を放つ女性が存在し、太一の人生を大きく変えていきます。

『美丘』感想まとめ

美丘という女性の魅力に惹きつけられる

太一と美丘の出会いは当然のように大学内だったのだが、美丘が大学屋上のフェンスから飛び降りようとしているところを太一が偶然目撃したところだった。

危険な場所や場面にいる男女は恋に落ちるとはよく聞くが、この2人にも当てはまったのかもしれない。

この屋上での2人の最初の会話が私は結構好きです。

(中略)

「わたし、峰岸美丘、文学部二年、あなたは」

ぼくは二十二階の端で立ち上がった。フェンスがないと空に吸い込まれそうだが、なんとか足を踏ん張って耐える。

「橋本太一、経済学部二年。自殺なんかするつもりは、ないんだよね」

(出展:『美丘』(石田衣良)p.13)

飛び降り自殺の前にする会話には似つかわしくないですよね。

自己紹介に平然と答える太一もどこか美丘に似ているところがあるなと思いました。

この行動を見てわかるかもしれないが、美丘は自由奔放で活発な女性なんです。

ちなみに彼女は飛び降り自殺をする気はないと言い、ただ空の近くに寄りたかったという理由でフェンスを越えていました。

 

冷や冷やちゃいますよね。

 

そんな稀有な出会い方をした2人は徐々に惹かれあい、素敵な恋に落ちていきます。

美丘を受け入れる麻里の寛大さに脱帽

太一は友達の邦彦、洋次、麻里、直美の3人とグループでつるんでおり、美丘との2度目の出会いはグループで昼食を食べているとき、美丘が友達の彼氏を寝取ったという話で喧嘩をした時でした。

彼女は性にも自由奔放な女の子だったのです。

美丘は友達に頬を平手打ちされ、美丘も友達に平手打ちをするというかなり険悪なムードの中、ふたたび太一が現れ喧嘩の仲裁をします。

「人の男に手を出す最低なインラン女」と罵られても平気な顔の美丘。

そんな美丘をグループの仲間に入れようという話になりました。

こんな状況を目の当たりにしたのに、美丘をグループに入れようと思った麻里は寛大な女性だよねと思いました。

 

正直、人の男に手を出す女とはあまり一緒にいたくないですよね?

 

そんな流れで、嵐のような激しさを秘めた美丘が仲間に加わりました。

麻里とのキスをきっかけに美丘が好きだと気づく皮肉

美丘が加わったグループは飲み会や遊びでみんな大学生を謳歌します。

そんな中、美丘は麻里が太一のことを好きであることにイチ早く気が付きます。

美丘はこのグループ、麻里や直美のことが好きになり当然のように麻里の恋路を応援します。

太一に「絶対に麻里を付き合うべき、太一にはもったいないくらい良い女(お嬢様)である」と押されます。

そんな美丘の努力の甲斐もあってか麻里と太一は付き合うことになりました。

 

しかし、太一が決定的に美丘のことを好きだと気づくのは、麻里と初めてキスをした時でした。

好きな人とキスをしていたはずなのに、他の女の子のことを好きだと気づくなんて皮肉なことですよね。

きみは無邪気に笑っていた。その横顔を見ていると、胸がどんどん苦しくなってくる。麻里とは唇をふれあっているときでさえ高鳴らなかったのに、酔っ払ってダイニングチェアであぐらをかいているきみを見るだけでたまらなくなるのだ。

そのとき、ぼくは身体の中心でなにかが音を立ててはがれ落ちた。背骨が縦に裂けるような音だった。それをきいてはっきりとわかったのだ。ぼくはもう麻里とはつきあう振りはできない。きみのことが好きになっているんだと。(p.135~136)

麻里は性格もよく美人で素敵な女性のはずなのに、あぐらをかいて酔っ払っている美丘の方が太一には魅力的に見えました。

人は美人であったり性格がいいという理由だけで好きなるわけではないんだなと。

不思議なものですよね。

 

美丘のことが好きと気づいた太一はすぐ美丘に自分の気持ちを伝えます。

その後太一と麻里は別れることになるのですが、まぁ壮絶な雰囲気で終わりました。

普段は感情をあまり表に出さない麻里は美丘のことを殴ったのです。

 

「私はあなたを絶対に許さない」という麻里のセリフには私も背筋が凍りました(笑)

 

ここから美丘と太一の2人の甘く熱々の恋愛が始まるかと思いきや、美丘から衝撃の事実を告白されます。

それはクロイツフェルト・ヤコブ病という不治の病に感染していること、長くは生きられないという内容でした。

この病気が発症すると、身体が自由に動かしづらくなり、脳はスポンジのようにカラカラになってしまいます。

最終的には身体はまったく動かなくなり、記憶の欠落、心肺機能の停止をし呼吸をすることも忘れてしまう。

徐々に死に向かっていくという恐ろしい病気でした。

そんな美丘の病気のことを知っても、太一は美丘と一緒にいることを約束します。

ここで太一の美丘への気持ちが本物であることが伺えましたね。

美丘の願いは「最後まで生きること」

自分が病気に感染していることを知っていた美丘は、死ぬまでに全力で生きること「自分らしくあること」をしてきました。

しかし太一と美丘が最初に出会った屋上のフェンスにいるとき、彼女は本当は自殺しようとしていました。

いつ発症するかわからない病に怯えていたのです、そんな時に美丘は偶然にも太一と出会いました。

美丘は自殺しようとしていたあの時に、太一が本物の天使に見えたそうです。

太一と美丘はそれぞれの両親と顔合わせをし、同棲する許可をもらいます。

 

大学にもしっかり通い、バイトもして美丘とともに生活していきますが、ついに美丘の病気は発症してしまいます。

ここからは怒涛の展開で、涙なしでは読めないシーンばかりでした。

身体は上手く動かなくなり、突然新宿が知らない街になり、シチューの味もめちゃくちゃになります。

難しい漢字も書けなくなりボーッとする時間が増える美丘、太一はそれでも美丘を支え、彼女を愛していました。

美丘は自分が死に向かっていることにひどく怯えるようになっていきます。

あれほど元気で明るい美丘でさえ、死ぬのは怖いのでした。

 

物語の後半を読めば読むほど、前半の元気な美丘が恋しくなる作品でしたね。

しかし、美丘は自分の記憶が身体が思うようにいかなくなっても、生きることを諦めない女の子でした。

大学の講義でみんながろくに聞いていなくても、必至に教授の話すことをノートに取るシーンには、普段自分は当たり前のように教えてもらっていることをもっと大事にしようと思えました。

学びたいと思ってもできない人がいることを改めて知ることができました。

おわりに:大切な人が病におかされたらあなたはどうする?

石田衣良さんの著書『美丘』の紹介、読んだ感想をまとめていきました。

私がこの本で一番心に残っているのが最後の太一が美丘との「約束」を果たすシーンです。

その「約束」とは美丘が美丘でなくなってしまったら、太一の手で美丘を「終わり」にすることでした。

残された者として一番ツライ選択です。

しかし太一はその約束は少し遅れながらも果たします、それが本書の最後の部分です。

峰岸美丘。ぼくが愛して、これから約束を守りにむかう女性の名前だ。そのプレートを見た瞬間、ぼくはこのイニシャルをタトゥにして胸に刻もうと決心する。ドアのわきを軽くノックした。

「美丘、ぼくだよ。メリークリスマス」

それから、ぼくはきみのベッドに近づくだろう。きみの目をのぞきこみ。約束というだろう。きみは一度まばたきして、ぼくを勇気づけるだろう。酸素吸入のチューブに伸びる手が見える。点滴を引き抜く手も見える。どちらも見知らぬ男の手だ。

ぼくは君が息をしなくなるまで、赤いバラの花束をおいたベッドのうえで、ずっときみを抱き締めているだろう。

ありがとう、美丘。ありがとう。

そして、さようなら。きみはずっとぼくの胸で生きる。(p.286)

あなたは大切な人が病におかされたらどうするでしょうか?

最後まで看取るのか、太一のように「約束」を果たし自分の手で終わりにするのか。

私も考えずはいられなくなりました、そして、どちらにしてもツライことに変わりはないと思いました。

長くなりましたが本書の感想は以上で終わりになります。

 

私は本書を読んでいて、美丘が好きな人は『タイヨウのうた』もオススメだなと思いました。

切なくて泣ける恋愛ものを読みたい方はぜひチェックしてみてください。

今回紹介した本はこちら↓

 

最後まで読んでいただきありがとうございました!

 

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