森博嗣さんのエッセイ本は『つぶやきのクリーム The cream of the notes』だけ読んだことがあり、この『「やりがいのある仕事」という幻想
』は2冊目になりました。図書館で借りてみたのですがその理由が①森博嗣さんが書いているということ ②タイトルからして面白そうだと思った という2点です。やりがいのある仕事は幻想なのか?なぜ幻想なのか?この本を見た瞬間に疑問に思ってしまいました。
結論から言いますと、読んで損はない。むしろ就職活動前、大学生になる前に読んでもいい内容であったと思います。働くこと、仕事の定義、人生と仕事の関係など役に立つ考え方がたくさん詰まっていました。仕事、将来について真剣に考えている人には一読していただきたいと思う1冊です。
本の紹介
森博嗣さんが「これからの働き方」といった内容で執筆したエッセイ本。森博嗣さんに仕事について書かせるなんて面白いなと思いました。なぜなら森博嗣さんは元大学教授、現小説家の人物。ビジネスの世界で働いたこともなく、就職活動もろくに経験していないからです。
しかし、森博嗣さんは大学教授として多くの生徒さんの就職活動にアドバイスし、相談を受けてきています。彼の話にまったく信憑性・信頼性がないとは言えません。
森博嗣さんはまえがきで「この本で書きたいこと」というものを書いている。
自分の思ったとおりの就職ができなくても、全然悲観するようなことではない、ということを書きたいと思う。「これから就活をして、立派なビジネスマンになりたい!」と意気込んでいる人にはあまり適さないだろう。そういう人はその勢いで臨めば、まあしばらくの間は大丈夫だと思う。ただ、その勢いがなくなってきたときの心配があるだけだ。
(出展:「やりがいのある仕事」という幻想(森博嗣) p.15)
森博嗣さんらしい言葉で就活に悩める少年少女たちに希望を与えてくれている。意気込んでいる人に対する皮肉っぽい言い方も実に彼らしい表現であると思いました。
タイトルのとおりあくまで就職に明るい希望を抱いている人よりは、悩んでいる・暗い人向けに書かれている内容になっていることがわかります。
目次からも興味がひかれる
この本はまえがき+全5章で構成されており、各章のタイトルも興味深いものになっています。
第1章:仕事への大いなる勘違い
第2章:自分にあった仕事はどこにある?
第3章:これからの仕事
第4章:仕事の悩みや不安に答える
第5章:人生と仕事の関係
第1章からかなりグサッとくるタイトルになっていますよね。さらに細かい章分けには「仕事ってそんなに大事なの?」「仕事をしていると偉いのか?」「仕事は平等とは無関係」など読まずにはいられない言葉が並んでいます。
私が一番心に残った言葉
私がこの本で一番心に残った言葉が第5章の「やりがいという幻想」の中にある。
「やりがい」というのは、他者から「はい、これがあなたのやりがいですよ。楽しいですよ、やってごらんなさい」と与えられるものではない。そんなやりがいはない、というくらいはわかるだろう。ところが、今の子供たちは、すべて親や学校から与えられて育っている。ゲームもアニメも、他者から与えられたものだ。ほとんどの「楽しみ」がそうなのだから「やりがい」もきっとそういうふうに誰かからもらえるものだと信じている。どこかに用意されていて、探せば見つかるものだと考えている。
(出展:「やりがいのある仕事」という幻想(森博嗣) p.186-187)
「やりがい」は探せば見つかるものではない。頭ではわかっているつもりでも実はあまりわかっていない人は多いのではないでしょうか?
私たち若者はたしかに多くのものが与えられて育ってきた。勉強カリキュラムも学校が用意してくれていて、それに沿って勉強すれば中学、高校、大学と進学することができる。その過程で運動もできたしゲームもアニメも望めば楽しむことができました。
そして最近の多くの企業はご丁寧に「新人研修」を用意してくれている。それこそ学校と同じようにカリキュラムを組んでいてくれ、私たちはそれに沿って学習すればいいようになっている。しかも給料が発生するのだ。
そして研修が終わったあと、私たちは本格的に仕事をすることになる。仕事をするからには「やりがい」があることは必要。「やりがい」がなければ仕事を進めていくのは難しいでしょう。そんな「やりがい」はどうすれば見つけられる?探せばいいものではないとわかりはしたが、では具体的にどうすればいいのか知っている人はいるか?
「やりがい」を見出せなかった多くの人は会社を去り、また新しい職場で「やりがい」探しをする。そんなことが往々に現実に起こっているのが事実です。
では「やりがい」とは一体何なのか?それはちゃんとこの本に書かれています。気になる方はぜひ一読してみるといいでしょう。
お悩み相談なのに冷たい?
第4章にて森博嗣さんが「仕事に希望がありません」「やりがいか、給料か」「辞めるに辞められない」などなど働くことに対する様々な悩み・質問に答えている。
答えているのだが、彼の回答はもしかしたらどこか冷たい印象を受けるかもしれません。私も読んでいてずいぶんバッサリ言ってしまうな。質問者がこれを聞いて精神的に大丈夫なのか?と思ってしまいました。
「自由時間がありません」という質問に対して森博嗣さんの回答を引用させていただきます。
不思議な質問だと思った。やりたいことがあったら、どうしてもうやっていないのだろうか。時間がない、という言い訳を考える暇があるなら、やれば良いと思う。やりたいことというのは、寝ることよりも、食べることよりも、優先できるはずだ。もし、時間がないからできない、と判断しているのが本当ならば、それは、そこまでしてやりたくないことだといえるから、一所懸命になってやる必要もないと思う。
(出展:「やりがいのある仕事」という幻想(森博嗣) p.158)
質問者の気持ちを推察するに、自分なりに時間を捻出しているのに、食べる時間や寝る時間を削ってまで時間を捻出するなんて無謀・不可能に近いことである。そのうえで実用的なアドバイスがほしかった。と思うのではないだろうか?
彼は質問に対する回答のフォローとして全体的な補足をしていました。ざっくりまとめると、いわゆる相談にくる人は状況改善を望んで他者に縋ってくる。しかし、気持ちが落ち込んでいるときにはもちろん「励ましてほしい」と無意識に人は思っています。相談とはいいながら、論理的な良し悪しを聞きたいのではなく、「大丈夫だよ」「頑張れ」と応援をしてほしいのである。
森博嗣さんは質問者の状況を考え、冷静に状況改善を試みる回答をしているのだが、質問者からすればそれは励ましではない。だから彼の意見は冷たく感じ、ときには反発を覚えてしまう。
感情的に彼の意見を受け止めるのではなく、ぜひ冷静に状況を見られるときに彼の意見を拝読するのがいいと思います。
おわりに:わかっているのにわかっていない仕事論
彼の話している仕事論は突飛であるということはなく、いたって普通の意見であると私は感じました。しかし、普通の意見であるにもかかわらず私たちが普段見落としがち、忘れがちな考え方を思いださせてくれる。
例えば上記のお悩み相談の例。「やりたいことがあるのなら、どうしてやらないのだろうか?」たしかにやりたいならなればいいとわかっているはずなのに、私たちはなかなかやりたいことができないと思っている。仕事があるから生活があるから、と何かしら理由をつけてやらないのだ。
一度きりの人生なのになぜ仕事のせいにできるのか?生活のせいにできるのか?そんなものを理由にしても自分のやりたいこと・生活は変えることができないのに。
そんな自分を変えたい人はぜひ一度『「やりがいのある仕事」という幻想』を読んでみるといいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
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